COI statement(利益相反)の書き方|医学論文

透明性・信頼性を確保するため、論文の著者は各自利益相反(conflicts of interest [COI], competing interest)を自己申告する必要があります。

各ジャーナルにより申告の内容・方法に微妙な差はありますが、基本ルールは同じです。今回は、「COI disclosure」って何を書けばいいの?という論文投稿が初めての方向けに、 COI statement の書き方を整理しました。

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利益相反の開示目的

利益相反を開示するのは透明性のためです。その論文の内容によって第三者に利害を及ぼす可能性がある場合、その可能性が開示されていれば、読者は論文の解釈をする上でバイアスの可能性を加味することができます。逆に、利害関係が秘匿されていては隠れたバイアスに気付くことが出来ず、「適切な」判断ができません。

ただ、利害を及ぼす可能性のある第三者が「存在する」ことが、その論文の質(価値)を危うくする訳ではありません。また、「申告する = バイアスが必ずある」ということを意味する訳でもありません。開示された情報からどう判断するかは読者次第です。

COI の開示はあくまで「透明性」が目的です。「隠す」ことが利になることはありません。申告内容によって論文の「採否」に影響する訳ではありませんので、事実を申告しましょう。

また、この開示目的の本質を考えると、申告すべきか迷う内容の場合は「申告する」ことをおすすめします。ICMJE (International Committee of Medical Journal Editors) も、迷う場合は開示することを推奨しています。

ICMJE の申告書

大抵の医学系ジャーナルは、ICMJE の推奨に賛同しているか、これを基本方針としています。ジャーナル独自で申告書を用意している場合もありますが、ICMJE の申告書(COI disclosure form)をそのまま使うジャーナルもあります。ICMJE の推奨内容(申告する項目)は「共通認識」とされているため、ご存じない方は一度押さえておいた方が良いと思います。

以下では『ICMJE の申告書』にある項目を列挙しています(※2021年2月改訂版の内容です)。

申告する項目

申告対象については基本的に以下のルールがあります。

  • 投稿する論文との利害関係の可能性があるもの(疑われるもの)
  • 対象期間:項目1は期間に関係なく生じた全支援が対象、その他(項目2~13)は過去36ヵ月間が対象

その論文と全く関係のない領域や別次元の活動に関するものについては申告する必要はありません。

しかし、例えば「特定の薬剤の話はしていないから」と言って、「その領域を扱う企業との利害関係を”なし”」とするのは適切ではありません。この場合は申告対象になります。実際のバイアスの有無に関わらず、「可能性」があるものは全て申告するのが基本方針ですので、広めに申告した方が間違いが無いです。

ICMJE の申告書で開示が求められる内容は、以下の13項目です。(2021年2月改訂版)

1All support for the present manuscript (e.g., funding, provision of study materials, medical writing, article processing charges, etc.)
本原稿に対する支援(例:資金提供、研究材料・メディルライティング、論文掲載料の提供)
2Grants or contracts from any entity
研究助成金・契約
3Royalties or licenses
使用料・ライセンス
4Consulting fees
顧問料
5Payment or honoraria for lectures, presentations, speakers bureaus, manuscript writing or educational events
講義、発表、講演、原稿執筆または教育イベントに対する報酬または謝礼金
6Payment for expert testimony
専門家証言に対する報酬
7Support for attending meetings and/or travel
会議出席・旅費への支援
8Patents planned, issued or pending
特許
9Participation on a Data Safety Monitoring Board or Advisory Board
データ安全監視委員会または諮問委員会への参加
10Leadership or fiduciary role in other board, society, committee or advocacy group, paid or unpaid
他の理事会、組織、委員会、または活動団体におけるリーダーまたは受託者の役割
11Stock or stock options
株式・ストックオプション
12Receipt of equipment, materials, drugs, medical writing, gifts or other services
機器、材料、薬剤、メディカルライティング、贈答品、またはその他のサービスの受領
13Other financial or non-financial interests
その他の金銭的あるいは非金銭的利益

これはあくまで ICMJE の推奨する申告基準です。各ジャーナルで独自で申告対象(対象期間含む)を規定している場合もありますので、必ず各ジャーナルの投稿規定を確認してください。

COI statement の書き方

各著者について、「どこ(entity)」から「何を(item)」得ているかを記載します。

別途申告書を提出する場合は、申告書に記載した内容と論文内に記載する COI statement とで不一致が無いよう注意してください。

ステートメントの書き方自体に厳密なルールはありません。以下に例文を幾つか載せておきますので、良ければ参考にしてください。

例文

申告すべき利益相反がある場合

SA received a research grant from AAA Co., Ltd. and BBB Ltd. HI is a board member of CCC Inc. and received lecture fees from AAA Co., Ltd. JK’s spouse is chairman of the D committee. MB owns stocks of EEE Ltd. and received honoraria for speakers bureaus from FFF Co., Ltd. HT has an advisory role at GGG Inc.

S. Akizuki and H. Imai are employees of AAA Inc.; J. Karter received a research grant from BBB Ltd., CCC Co., Ltd., and DDD Inc.; M. Bennett has a patent on E and received honoraria for manuscript writing from FFF Co., Ltd.; and H. Tani has an endowed chair at GGG Institute.

SA and HT received research grants from AAA Inc. and BBB Ltd. MB received a scholarship grant from CCC Inc. The other authors declare that they have no conflicts of interest to disclose.

複数の著者の申告内容が同じ場合は複数人をまとめて記載してもいいですし、一人ひとり分けて記載してもいいです。大事なのは申告内容であり、文章の書き方自体に細かなルールはありません。

著者の誰も開示すべき利益相反が無い場合

「申告するものが無い」のと「何も書かない」のとは意味が全く異なります。申告すべき利益相反が無い場合は、明確に「利益相反が無い」ということを明記しましょう。

The authors declare that they have no conflict of interest.

The authors have no competing interests to disclose.

よく使う項目名

COI で開示すべき項目は financial のものに限りませんが、financial なものだと以下のものが申告対象に入っている場合が多いです。

役員・顧問board member, leadership position, advisory role
株式の保有・利益stock
特許使用料patent royalties
講演料lecture fee (honoraria for lecturing)
原稿料manuscript fee (honoraria for writing)
研究費・助成金research grant
奨学寄附金scholarship grant
寄付講座endowed chair, endowed course
旅費・贈答品などその他の報酬other remuneration (e.g., travel fees, gifts)

申告書について

上で紹介した ICMJE の COI disclosure form は各著者が記入するタイプ(一人一枚)ですが、ジャーナルによっては全著者の申告内容を一枚に記載し代表著者のみサインするタイプや、全著者のサインが必要なものなど形式は様々です。

書式としてはまとめて記載するようなタイプでも、必ずしも一枚にまとめないといけない訳ではありません。全員分の署名さえあればいいので、一人ずつ別の紙にサインしたものをまとめて提出する形でも問題ないはずです(これまでこの方法で断られたことがありません。事前に編集部に問い合わせれば教えてくれますので心配な方はご確認ください)。

地域や国を跨いで複数の共著者がいることが多いと思いますし、世界はもっとペーパーレスが進んでいます。「同一の紙」にこだわる必要はありませんので安心してください。

まとめ

あくまで大事なのは申告内容なので、書き方に関しては厳密なルールはありません。

基本的には「何を」「どの団体からもらっているか」(あるいは「どの団体と」「どんな関係があるのか」)という二点を含めれば問題ありません。また、「申告すべきものがない」と明記するのと「何も書かない」のとは全く意味が異なります。申告すべき内容が無い場合は、明確にその旨ステートメントの中で明記するようにしてくださいね。

是非、参考にしていただければ幸いです。

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